オマーン アハーズィージュ、アラブ馬について

オマーンは20世紀に入ってから、伝染病のためにアラブ馬が激減していたのですが、1970年を機にアラブ馬の復興に国を挙げて務めてきました。ですが、そのような経緯は勿論、アラブ馬について何も知らない方たちが純血アラブ馬アハーズィージュとアングロアラブ馬ホーエイダイオーを交配してしまったわけです。

私の批判を察知した関係者曰く、「動物を下さるのなら、つがいで下さるものなのでは」。????!!! 

       馬に限らず、万事この調子で外交しているのでは?

注)アハジージュと記載されることが多いようです。アラビア語の専門家に直接にお聞きしたところ、カタカナ記載ではアハーズィージュが適切とのことでした。意味は、「朗誦(音楽を伴わない)」と教えて頂きました。

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2012年、10月にオマーン大使館で写真展を開催することになりました。

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            日・サ友好協会報

サウディ発見

サウディアラビアの馬事文化

写真家 佐藤 美子

現在、中央競馬会で走っているサラブレッドのルーツは中東にあります。サラブレッドは、17世紀にイギリスの在来馬とアラブ馬を交配して作出されました。アラブ馬がいなかったなら、サラブレッドは存在しない。それにしては日本では余りに知られていないのがアラブ馬です。中東での度重なる撮影を経て、私の興味はアラブ馬に注がれました。

それから幾度も中東でのアラブ馬の撮影を経て、国立民族学博物館本館で「アラビアンナイトの馬たち」を開催することができました。これは国立博物館では初めての個人による写真展であり、観覧された方々に彼の地の文化遺産が認識されることは、私にとってこのうえない喜びでした。ギャラリー・トークでは活発に質問が飛び交いましたが、これは東京の国際交流基金フォーラムで催された写真展示のギャラリー・トークでも同様でした。

サウディアラビアでは毎年冬に、王族が率いる国家警備隊の主催によるナショナル・イベントが催されます。その折に、サウディアラビア独特の騎芸が披露されますが、用いられる馬は、アラブ、アングロ・アラブ、それにサラブレッドです。アングロ・アラブとは、アラブとサラブレッドを交配した種であり、アラブの血量が25パーセント以上占めていることが種としての条件となっています。さてサウディアラビアの国家警備隊で騎乗が得意な方々は、ベドウィンが多く、遊牧民のルーツを持つ彼らの能力をいかんなく発揮できる仕事といえます。「クルアーン」には、預言者ムハンマドがベドウィンについて言及している箇所が少なからずあるので、しばしば紐解いて参照しました。

さてクルアーンにも描かれたように、暁とともに敵部族を襲う、かつての抗争において馬は欠かすことのできないものでした。駿馬の育成は、歴史と文化的な背景に根ざした真摯な営みに他ありません。預言者ムハンマドは624年の「バドルの戦い」に勝利したものの、翌年の「ウフドの戦い」で異教徒に敗北しました。この戦いをきっかけとして、本格的に馬産に取り組むことになったという。歴史的な戦いの地、ウフドは実戦地の反対側からしか撮影許可されなかったものの、クルアーンに描かれた大切な場所を見渡すことが叶いました。

時を経て現代、国家警備隊の騎乗レベルの高さはつとに知られており、炎に包まれる障害飛越やテント・ペギング(敵のテントの杭を騎乗しながら取り去ることをルーツとする、インド発祥の騎芸)、馬を号令で横臥させる技術などが披露されました。撮影した当日は、たまたま男性観客の日であったため、女性は私ひとり。黒いアバーヤ姿で、超望遠レンズをかついで写して回りました。すっきりと澄みわたった青空に、微風が気持ちよい一日でした。

また国王のプライベート・ファームのアラブ馬や、アラブ馬センターも撮影することができました。アラブ馬の馬体は小柄で、き高(背中の一番高いところ)まで150センチ程度、額は広く、眼は大きく、耳は小さい。尾は高い位置についていて、尻は丸い。筋肉には遅筋が多いので長距離に強く、血液のヘモグロビン量が多いことにより酸素を多く運び、薄い皮膚は放熱を容易にすることが認められています。優雅な外見だけではなく、このような特徴により愛好されてきたわけです。短距離ならサラブレッドに敵う馬は世界中どこにもいないが、長距離においてはアラブ馬が強いのです。その歴史は古く、ほぼ5000年前から存在していたと考えられています。

かつては戦で珍重されたものの、現在の生活に馬は必ずしも必要ではありません。しかし王族が国を挙げて保護育成にあたっているのは、アラブ圏における文化遺産に他ならないからです。名馬を所有することは名誉であり、アラブ名馬を贈答することは、彼らにとって最高の敬意と友情を示しています。傑出した名馬は、淘汰を重ねた結果の作品ともいえます。一頭の馬、それには馬産に関わった多くの名もなき人々の汗が脈々と流れているのです。

転載:「日本サウディアラビア協会報」写真・文章 佐藤美子写真家 Yoshiko Sato
No.216 March2006