オマーンの馬アハーズイージュ、豊歓 日本の外交

2012年、10月にオマーン大使館で写真展を開催することになりました。

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 オマーン大使館で、7月22日に友好団体からスピーチを頼まれていました。「馬」がテーマとあって、日本側の問題点を指摘するために、以前に「自然と人間」という雑誌に4頁ほど掲載した記事についてお知らせしました。
Photograph & Text by Yoshiko Sato

「自然と人間」
馬駆ける地球   宮内庁に裏切られた友好の絆 アラブ馬

「アラブ馬」と呼ばれる、古い品種の馬が存在する。中東原産のこの馬は、歴史に育まれた大切な文化遺産として、名馬の育成に心血が注がれている。古来より中東やヨーロッパでは、アラブ馬を贈答することは、敬意と友情の証として認識されている。

日本にアラブ馬が導入されたのは1897年のこと。フランスの養蚕業が打撃を受けたおりに、徳川幕府が蚕卵紙を売り渡したことに対する返礼として26頭のアラブ馬が渡来した。物珍しさに当初は興奮した日本人だが、やがて何処へとも知れずに馬を散逸させてしまう。フランス側はこのありさまを知って、いたく失望した。

時を経て1995年、友好の印として湾岸諸国のオマーンから日本に、スルタンが所有する1頭のアラブ牝馬が贈物とされた。日本側は宮内庁の御料牧場に繋ぎ、国民の目から完全に遮断したばかりか、取材さえ拒否している。

ちなみに私は今までオマーン・ヨルダン・サウジアラビアの王室厩舎撮影のおりに、王族にも直接インタビューしている。またイギリス王室所有の馬は、外人観光客でも餌を与えたり、触れたりすることができるのだ。日本は最も秘密主義である。

さて97年に1頭の牡馬(豊歓ーとよよしーと名付けられた)がこの馬から産まれた。朗報に沸いたオマーン側は事情を調べて驚愕した。交配した馬はアングロアラブ(サラブレッドとアラブを交配した馬)であったからだ。アングロアラブは近年に、フランスで育成された馬。
人間に勝手に交配された馬たちには何の罪もないものの、アラブ人の間での評価は低い。

選び抜いて贈物としたアラブ馬をアングロアラブ馬と交配するとは、挑発的とも言えるほど奇矯なふるまいだ。淘汰を重ねて育種してきた1頭のアラブ名馬の血脈は、御料牧場で断たれてしまった。ましてその子を早々と去勢してしまうとは。
 「ああ、やっと終わった」と言わんばかり。無用な軋轢をあえて生じさせている。

さて全てを知ったオマーン側から、不興を伝えられた宮内庁はあわてふためいた。中央競馬会に頼み込んでアラブ種牡馬を外国から輸入させて、3年間にわたって交配したものの、受胎にはいたらなかった。そして昨年はまた、他のアングロアラブと交配した。

一連の動きには、日本の外交が象徴的に表れている。相手の文化を知らない。知らないから誇りを踏みにじるようなことを平気でやってのける。それにより、軽蔑と冷笑に遭遇する。あわてて取り繕うが万事休す。
 知識も敬意も無く、軍事と経済で中東を威圧しようとする愚かな外交政策は、いくら批判しても充分ではない。

(C)写真・文章 佐藤美子(さとうよしこ)

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上記掲載の後に、知人の知人が御料牧場の方を知っているということで、私を含めて三名で訪れました。

アラブ馬「アハーズィージュ」とアングロアラブ馬(アラブの血量を25%以上とする)ホーエイダイオーを交配して産まれた「豊歓」は、当然のことながらアングロアラブ馬。数年前に、皇居で飼われていると聞きました。

アラブ馬はイギリスに本部を置く、「世界アラブ馬機構」の厳密な審査のもとに登録されています。

アラブ馬と人の織り成す情景を撮った、佐藤美子の「アラビアンナイトの馬たち」オーシャンライフ刊はネットで購入可能。ご興味を抱いて頂ける方は、アマゾン・ブックサービス・楽天・馬の雑貨屋などのサイトからご注文下さい。

ちなみにサラブレッドは、「短距離競馬用」に人為的に創られました。17世紀のイギリスに端を発し、イギリス在来馬とアラブ馬(他にトルクメンを始めとする中東の馬およびアフリカのバルブを含むという説もあり)を交配した品種。

注)アハジージュと記載されることが多いようです。アラビア語の専門家に直接お聞きしたところ、カタカナ記載ではアハーズィージュが適切とのことでした。